1. はじめに

 土壌は、水や空気と同様、地球人にはあまりにもありふれたものであ    るため、その存在価値がないがしろにされているきらいがある。土壌は 生物の参加があってはじめて生成されるものであり、生物の存在しな いところには土壌は存在しない。つまり、土壌を無視しては、少なくと も4億年前、陸上生物が発生した以降の地球の生物(むろん人類も含む)界を語ることは不可能であると言ってよい。

 土壌とは「地球の地殻の最上層部分に位置するもので、この層は地殻表面の岩石が崩壊・分解して地表に堆積し、これに動植物の遺体が加わって生成されたものである。」とされている。そのため、間隙に富む粒状の層となっており、間隙の部分には空気や水が存在していて、生物にとって非常に住みやすい居住空間となる。土壌中に生息する生物は、大きいものでモグラやネズミ、小さいものでミミズや昆虫、さらに小さいものになると原生動物や菌類、細菌類といった微生物になる。土壌中にはこれらの生物が多く生息し、特に微生物は1gの土壌中に10億〜20億もの個体数が存在すると言われている。

 土壌浄化法が他の処理方式に比べて浄化能力が優れている原因は、圧倒的数の土壌微生物が活発に活動することで、浄化の主役を担っているからである。

2. 土壌浄化法

 土壌浄化法の語に初めて接した人は、おそらく重金属汚染などを受けた土壌を浄化する工法の意であろうと早合点すると思われる。実際、この意味で現在も使われているのも事実である。しかしながら、土壌浄化法の訳語 Waste Water Treatment by Soil でも分かるように、これは「土壌を」ではなくて、汚水や悪臭を「土壌を使って」浄化する工法の名称である。

 不要になった廃水を「土壌を使って」処理する方法は一括して土壌処理法の名で呼ばれ、昔から広く世界中で使われている。

 土壌浄化法もその分類からすると、土壌処理法のひとつということになるが、在来の方法(かんがい法、地表面流下法、浸透ろ過法−吸い込み式たて穴法)が、とかく慣習的なもので確たる原理に導かれたものではなかったのに対して、土壌科学の諸原理が縦横に駆使されており、その点で在来の土壌処理法とは明らかに一線を画しているものであると言えよう。

3. 土壌浄化法の原理と効果

 生ゴミを土に埋ると肥料になることはよく知られているように、土壌浄化法とは『自然の土壌生態系がもつ独特の機能を、水処理、環境浄化のシステムのなかに意識的に適用した工法』である。

 動植物と自然の作用によって形成される土壌は、空間的構成として、固層、液層、気層の3層からなる。土壌の主体となる固層の土粒子は、粒径によって礫、砂、シルト、粘土に区分され、固層の表面と液層、気層で占められる空間は、土の間隙率として表されるもので、この間隙率は、土粒子の粒径、粒子が相互に結合した団粒構造、締固めや圧密の程度によって約26%〜73%の値となる。

 土壌における水の浸透能は、この土壌空間構成と非常に密接な関係があり、粒径が小さいシルト質土であっても団粒構造が発達すれば、透水性が非常に向上するなどの特質があり、土壌の物理的・化学的効果の主要な役割を担っている。

 土壌の浄化作用は汚水が土中を浸透(流動)する過程で行われる。したがって、適当な浸透条件を与えないと期待どおりの効果が得られない。土中の水分の移動には、間隙が水で完全に飽和された条件で行われる飽和浸透と、間隙に気体を含む状態で行われる不飽和浸透がある。土壌による浄化は主に、不飽和浸透条件下でおこなわれる。

 土壌微生物による有機成分の分解は、飽和状態では起こりにくく、土壌間隙に空気(酸素)が供給されるときに効率的に行われるという特徴があり、土壌の三相を適度にバランスさせることが要求される。不飽和浸透条件下での水分移動は、浸潤(降下浸潤・毛管上昇浸潤)、土壌面蒸発、蒸散を通じて行われ、空気の移動は、ガス拡散と空気交換(自然もしくは人工的手段)を通じて行われる。これらのメカニズムをよく理解したうえで、土壌浄化装置が設計されねばならない。

 土壌浄化の仕組みは、主として土壌粒子がフィルターの役割を担うろ過(物理的作用)、土壌中の粘土鉱物や腐植が吸着材の役割を果たすことによる吸着(化学的作用)、土壌に生息する生物の活動による生物分解(生物的作用)となっている。

 以上により得られる一般的によく知られている具体的な土壌の浄化効果には、次のものがある。

   ・ SS1のろ過

   ・ 有機物の分解(BOD2の低下)や窒素化合物の分解

   ・ 酸性水の中性化(陽イオンの吸着)

   ・ リンの固定化(陰イオンの吸着)

      ※ 1. SS:浮遊物質。水中に浮遊している微細粒子。

      ※ 2. BOD:生物学的酸素要求量。水の有機物による汚染度を示す指標。
                        

 土粒子間隙を汚水が通過する際に土壌粒子表面に様々な無機物、有機物が保持されることになり、これを土壌微生物が、自らの生命の維持、増殖のエネルギーを得るエサとして、炭酸ガスや水へ酸化・分解し、無機物に戻す作用を行っている。この作用によって、汚水中の汚濁成分が分解除去される。土壌に生息する微生物群の多様性と絶対的個体数の多さから、その効果は非常に高く、安定したものとなっている。

4. 土壌浄化法の変遷

 土壌浄化法も初期の原始的なものから現在に至るまで様々な手法が用いられているが、代表的なものをピックアップし、その変遷を紹介する。

   1. セピテックタンク・トレンチ法

 セピテックタンク+トレンチ法は、セピテックタンク(腐敗槽)とトレンチ(素掘の側溝)に散水管を埋設したものを組み合わせた非常に簡単な工法で、生活排水の個別処理システムとして、欧米諸国では伝統的な処理方法となっている。

 処理能力は20〜50 l/m2・日で、1家庭の排水を処理するのに土壌トレンチだけでも約50m2以上の敷地面積が必要となり、国土の狭い日本ではほとんど採用されていない方式であるが、土壌浄化法の元祖と言える。

図1 セピテットタンク+トレンチ図

               

   2. 毛管浸潤方式

 毛管浸潤トレンチ工法は、1次・2次処理を施す前処理装置と、図2 に示すような構造を持つ毛管浸潤トレンチを組み合わせたものである。

 

図2 毛管浸潤トレンチの構造図

 トレンチの底に敷かれた、両端に若干の立ち上がりをもつ不透水性の合成樹脂膜によって、汚水はそれ以上下降できずに底でたまる。そこから周辺の自然土壌に毛管上昇と誘導毛管水が起こり、汚水が浸潤していく過程で浄化作用を受け、汚水が処理される。

 現在日本で最も普及している土壌浄化法であり、建築基準法に基づく建設大臣認定を取得している方式である。処理能力は50〜70 l/m2・日で、セピテックタンク+トレンチ法の約2分の1程度の敷地面積で設置可能である。

 ただし、近年における研究によれば、土壌内の汚水の流動は、毛管浸潤によるものが全てではなく、その大半は重力浸透であったことが判明している。

   3. 蒸発散方式

 トレンチ方式とは別に、トイレからの排水を浸潤マットを介して、25〜50 l/m2・日の量で空気中へ水蒸気として放出させる、蒸発散方式がある。

図3 蒸発散方式フロー図

 しかし、日本の気候条件での年間の水収支は、降雨量2に対し、表面流下(河川等を含む)が1で、残りの雨水は、地表から蒸発散するか、土壌中に保水、或いは、浸透して地下水等を形成すると言う過程をたどる。ある程度地表からの蒸発量が見込まれるのは確かであるが、雨水と同様にトイレからの排水が、すべて土壌から蒸発してしまうというのは、にわかには信じがたい話しである。

 そこで、当社でも土壌に流入した汚水の蒸発量について1年間の追跡調査を行った。雨水が浄化装置に流れ込まないように装置の上部にテントを張り、トイレからの流入量と浄化施設からの排水量を測定することで、空気中に放出される蒸発量の測定を行ったが、蒸発量はトイレからの流入量の20%程度に留まった。実際の使用条件における蒸発量は、日射量・気温・風速・降雨量に左右されるので、実験結果とは必ずしも一致しない。降雨の装置内への浸透を考慮した蒸発収支は、実験結果よりももっと少ないのではないかと推測される。したがって、この方式を適用するには、かなり風が良く吹きこみ、日射量が多く、降雨量が少ない地域でなければ、浄化装置の設置は技術的に困難なのではないかと思われる。

   4. エコ浄化システム

 エコ浄化システムは、毛管浄化法のトレンチ方式を改良した高度処理装置(エコ浄化装置)を有する浄化システムの名称である。1次・2次処理を行う前処理装置と流量調整槽、エコ浄化装置、緊急ろ過槽、集水槽を有し、処理水循環再利用式トイレに適応した浄化システムである。

 特徴は、浄化用土壌を人工的に配合することで、適用地の制約を取り払ったことと、装置の中段に空気層を設けて、好気性微生物の活性が高まる構造になっている点等で、毛管浄化法の発展版といえる。

 この方式は、下水道技術審査証明に基づき、下水の中間処理・造水装置として建設大臣認定を受けている方式であり、その処理能力は100〜200 l/m2・日以上である。

 

図4 エコ浄化システム図

   5. 多段土壌層法

 多段土壌層法は、1次・2次処理を施す前処理装置と、図5の断面図のような構造を持つ土壌槽を組み合わせた方式である。他の土壌浄化法と違う点は、その構造にある。透水性の高い通水層と、透水性は低いが浄化能力の高い混合土壌で出来た処理土壌層の2種類の土壌をレンガ状に組み合わせた構造を持つ土壌槽に、上部から散水管によって汚水を下降浸透させながら処理する方式である。処理能力は1,500  l/m2・日以上と非常に高く、小さい敷地面積での設置が可能である。

 処理土壌層の構成資材は、エコ浄化システムで開発された人工混合土壌が用いられており、全体のシステムは、両方式の長所を取り入れたものである。汚水発生のピーク時対応や土壌の目詰まり抑制に優れている。

 

図5 多段土壌層法図

   6. 処理能力の比較

 以上述べた方式の処理能力比較を図6に示す。

図6 日処理能力

5. トイレ排水処理と土壌浄化

 通常の生物処理に比べ、土壌浄化法の大きな特徴は、浄化能力の高さである。他方式においては、処理水のBOD濃度は5 mg/lが経済的処理限界といえる。しかし、土壌浄化法においては、BOD 1 mg/l(四万十川の清流水)程度まで処理が可能である。また、リンや窒素などの栄養塩類、色素・臭気成分も同時に除去が可能であるため、得られる処理水は、無色無臭の非常にきれいな水が得られる。そのため、処理水の水洗水等への再利用が可能で、土壌処理方式を採用したトイレの多くが、循環再利用型のトイレである。

 また、処理水を放流する場合においても、非常にきれいであるため、周辺環境へ負荷を与えることはほとんど無く、土壌浄化方式を利用すれば、快適且つ環境にやさしいトイレを設置することが可能である。

 土壌浄化法では、動力機器類への依存度が低く、土壌内に自然生息する微生物を利用するため、電気消費量が少なく、維持管理も容易であり、ランニングコストも抑えられる。さらに、最低限必要なポンプ等を稼動させる電力を、太陽発電等の自然エネルギーから供給できるようにすれば、水の再利用と併せて、周辺インフラに左右されない完全自立型のトイレの設置も可能である。そのため、離島や山の頂上付近などのインフラの整っていない地域や、排水規制の厳しい地域などでは、土壌浄化法の特徴が如何無く発揮できる場だと言える。

6. 土壌浄化法の今後

 土壌浄化方式に対するこれまでの認識は、『処理水質は確かに素晴らしいが、処理水量が小さすぎる。最初の1〜2年は良いが、それ以降は目詰まりを起こして使いものにならない恐れがある』との評価が定着していた。総合的浄化性能はともかく、処理効率に関してはそれほど多くは望めないのがこの方式の難点とされていた。確かにアメリカの「セピテックタンク方式」や、わが国における「毛管浸潤方式」を踏襲する限りにおいては、“使いものにならない”のは論外としても、処理水量については“そのとおり”と肯定せざるを得ない。ただ、様々な産業分野の技術発達史に多く見られる現象として、一定量の技術の蓄積段階を経た後、『突然の飛躍』が訪れる日がある。

 土壌浄化法の変遷の最後に紹介した『多段土壌層法』もまさにこの段階を迎えている技術といえる。この方式は、島根大学の若月教授グループが長年にわたる基礎研究と実証試験のなかで開発して来た『高速土壌処理方式』である。

 従来方式である毛管浸潤方式やその改良技術における処理水量は、100 〜 200 l/m2・日が限界であった。それに対して多段土壌層法は、前処理装置通過後の流入水濃度がBOD 50・SS 20mg/l前後の条件下で、親水用水と同程度(BOD3・SS 2mg/l以下)の水質基準をクリアし、日処理水量は4,000 l/m2 を達成している。

 これは、従来の土壌浄化方式による処理能力を大幅に凌駕している。土壌式浄化法に永年携わってきた専門家や技術者の間からは“信じられない”との声が挙がるほどの処理能力である。このような高速処理を行いながら、懸念される土壌の目詰まりの進行も抑制され、その回復も従来装置よりは早くなっている。

 今後、この処理方式に対する研究と、これを応用した設置事例が増えるにつれ、土壌浄化法の新たなる発展がもたらされるものと確信する次第である。